なぜ詫び石を配るのか?お詫び補填と売上の誤謬

ゲーム運営

今では当たり前のように配られている詫び石ですが、実はこの考え方自体はオンラインゲーム全体から見ると、つい最近になって始まったシステムで、そのためまだ詫び石と売上の関係について勘違いをする方が多いのが現状です。

今回はそんな詫び石と売上の関係について話していきます。

詫び石とは?

かなり有名な言葉のため、ほとんどの方がご存知だとは思いますが、一応説明をしておきますと、「ゲームで不具合があった時に、ユーザーにお詫びとして配る課金アイテム」の事です。

ちなみに、詫び石という言葉はパズドラが始まりと言われています。

それ以前は補填(実際の損害について補償をする)という物はありましたが、お詫びという形で損失の補填に当たらない補償は行われていませんでした。

お詫びに慣れた方から考えると驚くような話かもしれませんが、24時間メンテナンスを行っても、土壇場でメンテナンスを延長しても特になにもしないのが普通でした。

そんなお詫びですが、どうして行われるのかを説明していきたいと思います。

詫び石を配る表向きの理由

タイトルからしてかなり不穏な感じではありますが、詫び石を配る理由は
「不具合等で迷惑をかけた事をお詫びする」
という事になっています。なるほど、納得の理由ですね。

すこし悪意ある見方をすると、迷惑を被ったユーザーに「ガチャを回させてあげるから機嫌直してね。」とお願いをする意味で配ります。

ここで一歩踏み込んで考えてみましょう。

ガチャを数回回せる程度の課金石を貰えなかったからといって、辞めるようなユーザーがゲームの売上に貢献しますか?
数日や1週間などの長期ならいざしらず、数時間ゲームが遊べなかったからといって辞めるような熱意のゲームでガチャが回せるという理由で戻ってきますか?

答えはノーです。

ビジネスなので、意味がないことはやらないとすると、本当にお詫びだけを理由に配っているということはありません。

事実として、パズドラが配り始める前までは、「メンテナンスを延長したから申し訳ないし、何かあげようか」言いだす人はいませんでした。

ただ、申し訳ないと声にまで出して延長を知らせるプランナーは結構います。そして、延長してもいいやと思っている人は1人もいないという事もまた事実です。

詫び石を配る本当の理由

詫び石を配る理由大きく分けて2つあります。

  1. プロモーション的な理由
  2. 売上的な理由

大まかにこの2種類です。

お詫びがプロモーション的に意味があるのか?
売上と詫び石って逆の関係じゃないか?
などなど疑問のある所だと思いますので、順を追って説明していきます。

プロモーション的な理由

ここでいうプロモーションとは人をいかに沢山取るかではなく、いかに効率よく取るかという視点になります。

昨今はSNSやストアレビュー、5チャンネルといった情報サイトが非常に身近な情報源として用いられているため、こういったところで悪評が立つと広告の内容がよくて、流入が多くても実際ダウンロードまで進んでくれないという事があります。

そしてこれらの箇所で書かれる補填に対する不満は厄介なことに、「補償が妥当であったか」ではなく、「他のゲームと比較して良かったか」というのがポイントになってしまいます。

どういう事かというと「XXXのゲームでは△△△がもらえたのにこのゲームではもらえなかった。非常にケチな運営だ」と書かれてしまうのです。

そして、一度こういったネガティブな事を書かれてしまうと、芋づる式に不満点が出されていきます。
「そういえば、XXXは■■■で酷かった。」
「これだけ渋い運営なんだからきっとXXXも悪いんだろう。」
という具合に悪評が書かれてしまいます。

評判の悪いゲームを人に紹介するでしょうか?
評判の悪いゲームをわざわざダウンロードするでしょうか?
しないですよね。こうして、広告の効率が落ちてしまうのです。

では、これを解決するためにどうするかというと、他と比較しても遜色がない量を配るようにするのです。比較されないように。

これがお詫びを配るプロモーション的な理由です。
つまり、誰かがやってしまったから、もはやせざるを得ないのです。

売上的な理由

これは意外に見落としがちな点、そして今回のタイトルに紐づく内容となります。

一般的に詫び石を配るとその分売上が下がると言われていますが、その影響は実はそこまで大きくはありません。場合によっては長期的に見てプラスになる可能性もあります。
これが詫び石を配る売上的な理由になります。

課金石を渡すのに売上がプラスというのはなんだか不思議ですよね?
それではその理由を見ていきましょう。

詫び石が売上に影響しない理由

例えば不具合のお詫びとして、課金石100円分を1日以内にログインしたユーザー全員に配布するという内容にします。(普通は1日以内というのは普通ないですが計算しやすいので仮でこの値にしています)

仮に1日のアクティブユーザー数(DAU)が1万人だった場合、100万円の課金石がゲーム内に流通する事になります。
仮にこのゲームのKPIがDAU/1万人、課金率/2%、ARPPU/6,000円のゲームだとすると、1日の売上は下記のような感じになります。

DAU 10,000 × 課金率 2% =PU 200
PU 200 × ARPPU 6,000 = Sales(売上) 1,200,000円(120万円)

さて、こうみるとおおよそ1日の売上に匹敵するような額の配布ですね。
とても大きな損失です。

でも、本当にそうでしょうか?

もしすべてのユーザーが課金をするゲームであれば恐らくその通りなのでしょう。

しかし、課金率が2%のゲームとはつまり、98%の人はその日に課金しないユーザーですので、その日の売上に大きな影響を与えることは少なそうですよね。

それでは期間を伸ばして見てみましょう。
2018年の「ファミ通モバイルゲーム白書」によれば、1年間に1度でも課金した人の割合は9%のようですので、少なくともお金を払う見込みのあるユーザーはそもそも1年で10%も居ない可能性が高そうです。

仮に1年間で課金をする見込みがあるユーザーが多く見積もって10%だとして、
全員が、たまたまこのゲームで、このタイミングに課金をしようと思っていたとしても、課金者の割合は10%。
残り90%は詫び石の有無によらず、そもそもお金を払う事はなかったという事になります。
つまり、機会損失は多く見積もっても120万円の1/10に当たる12万円程度が妥当な評価です。

そう考えると実は思っているほど損失が大きく無いのではないでしょうか。

詫び石が売上につながる理由

これはケガの功名のような発見です。
元々ガラケーの時代から、一般的な課金施策としてガチャチケットなどを配っていました。

これはチケットを使ってもらうことで、良いアイテムを当ててもらい、ガチャを回すと良いことがあるというのを体験してもらうという狙いによるものです。

つまり、詫び石を渡すというのは、以前からある成功体験をさせて課金を促す考え方と同じ事なのです。
加えて、ガチャチケットと課金通貨最大の違いは課金通貨は不足分を「課金で補える」という事です。

例えば、期間限定で非常に魅力的なガチャが開催中です。
そして、10連ガチャなら確率アップです。
そしてあなたの手持ちの魔法石はあと100円分あれば10連ガチャに届きます。
この状況なら課金をしてもいいかなと思えてこないでしょうか?

これが、詫び石が売上につながる理由です。

まとめ

いかがでしたでしょうか?

こういった視点で見ると、詫び石一つとっても色々と考えられていますね。

もちろん元々は本当にお詫びする気持ちで渡していたものではありますが、そこにやるべき理由があるからこそ、こぞって行うようになったのです。

ちなみに海外でも「Apologems」と呼ばれる「詫び石」に相当するものや、メンテ延長に対してお詫びをする文化が広まっているようです。

これ自体は新しい概念なので、良いか悪いかを決めるのはまだ難しいですが、少なくとも現時点では世界的にやった方がよいと判断されているようです。

文字数もそこそこになってきましたので、今回はこれくらいにしたいと思います。
KPIについての続きも引き続き準備中ですので、お待ちくださいませ。

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